紫外線療法が有効とされる皮膚の病気の一つに「白斑(はくはん)」という病気があります。白斑とは、どんな病気なのでしょうか。このコラムでは、横川 真紀 先生(横川ひふ科クリニック 院長/皮膚科専門医)に白斑について詳しくお話を伺うとともに、治療法や、患者さんご自身だけでなく周りの方も知っておきたいことについて教えていただきました。
取材ご協力:横川 真紀 先生(横川ひふ科クリニック 院長/皮膚科専門医)
白斑とは?
白斑って、どんな病気なのですか?
白斑とは、皮膚の色に異常が起こる「色素異常症」の一種です。
通常、私たちの体の中では、表皮にあるメラノサイトという色素細胞の中でメラニンが合成され、メラニンを角化細胞に渡すことによって、皮膚を紫外線から守っています。色素異常症は、様々な原因によってメラニンが減少・消失、または増加することで起こる皮膚の病気の総称で、その中でもメラニンが減少する、またはメラノサイト自体が存在しなくなることで起こる「脱色素疾患」により、皮膚の色が部分的あるいは全身にわたって白く抜ける状態のことを白斑と呼びます。一般的に白斑と呼ばれる皮膚の状態は、医学的には「脱色素斑」と言います。
白斑にも、種類があるのですか?
白斑を起こす脱色素疾患には、さまざまな病気があります。脱色素疾患は、生まれつきの先天性の病気か、あとから発症する後天性のものかでまず分類され、更に症状が出る範囲が全身か部分的(=限局性)かでも分けられます。
一様に白斑と言っても、遺伝子の異常や自己免疫機序・加齢などにより、メラニンを作るメラノサイト自体が減少・消失する場合や、メラノサイトがあってもメラニンを作る機能に異常がある場合、そしてメラニンを作れても角化細胞に渡す機能に異常がある場合など、その病態はさまざまです。また、作られるメラニンの量によっても皮膚表面にあらわれる白斑の状態に違いがあり、境界のはっきりとしたものは「完全脱色素斑」、境界が不明瞭でぼんやりとしたものは「不完全脱色素斑」と呼ばれています。
以下に、代表的な脱色素疾患の例を挙げます。他にも多数の病気がありますが、一例として参考にしてください。
<先天性>
全身性
・眼皮膚白皮症
限局性
・脱色素性母斑
・まだら症
<後天性>
全身性(汎発型:はんぱつがた 全身の広い範囲で、至る所に生じること)
・尋常性白斑(汎発型)
・老人性白斑
限局性
・尋常性白斑(分節型)
尋常性白斑について、もっと詳しく知りたい!
尋常性白斑とはどんな病気ですか?
尋常性白斑は、脱色素疾患の中で最も多い後天性の病気で、色素脱失が起こる病気の約6割を占めるといわれています。境界のはっきりした完全脱色素斑が現れ、多くは周りに軽い色素沈着が起こります。「しろなまず」と呼ばれることもあります。
皮膚の表面は、枝分かれした神経が支配する範囲に応じて「皮膚分節」と呼ばれる領域に分けられているのですが、尋常性白斑はこの皮膚分節に関係なく全身どこにでも白斑が現れる「非分節型」、皮膚分節に一致して片側に白斑が現れる「分節型」、その両方が混在する「混合型」に分類されます。また、非分節型には汎発型、粘膜型、肢端顔面型、全身型などが含まれていて、汎発型が最も多く見られます。
最も多く見られる汎発型の尋常性白斑は、年齢を問わず生涯あらゆる時期に発症して、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら徐々に拡大していく特徴があります。白斑は、顔面、体幹、四肢の広範囲に現れますが、特に四肢の関節の外側など摩擦が起こる部位に多く見られると言われます。
これに対して分節型の場合、若年層に多く見られ、比較的短期間において、一定の皮膚分節内で拡大します。左右片側のみに白斑が現れ、体にも出ますが、顔面に出る割合が多いようです。
尋常性白斑はなぜ起こるのでしょう?
尋常性白斑がなぜ起こるのかは、残念ながらまだ明らかになっていません。ただ、多くの患者さんにメラノサイトに対する抗体が検出されることと、汎発型では合併症として慢性甲状腺炎(橋本病)や悪性貧血といった自己免疫疾患が多く見られることから、自己免疫説が提唱されています。抗体とは、本来は病原菌などの異物が体に入ったときに、それぞれに反応するために作られるもので、体を守るための免疫のもととなるものです。しかし、尋常性白斑の患者さんでは、本来攻撃するべきではないメラノサイトを攻撃する抗体がつくられてしまって、メラノサイトが破壊され皮膚の色が抜けるのではないか、といわれています。
また分節型では、症状が出ている部位に発汗の異常が起こることやストレスがかかると悪化することから、自律神経のバランスが大きく崩れてしまうとこが一因ではないか、という説もあります。私たちの体の神経は中枢神経である脳・脊髄から枝分かれして、樹木のように体の各部位に伸びています。これを末梢神経といい、本来は体を正常に動かすための物質を受け渡す末梢神経から、メラノサイトの機能を妨げてしまう物質が分泌されているのではないか、と言われています。
尋常性白斑はどうやって治療するのですか?
尋常性白斑の治療は、まず症状が出ている範囲から治療法を選択します。体表面積の10~20%以下の白斑では、まずはステロイドの塗り薬が用いられます。また、ステロイドの効果があらわれにくい汎発型などの尋常性白斑では、ナローバンドUVB(NB-UVB)などの紫外線療法が第一選択となります。紫外線療法の中ではナローバンドUVBが主流とされていますが、近年ではエキシマレーザー・エキシマライトによる治療の有効性も報告されています。
塗り薬、紫外線療法で効果が不十分な場合、症状が出ている部分に正常な皮膚を移植する「植皮」や、外科手術が用いられる場合もあります。また、患者さんの心の負担を軽くする目的で、カモフラージュメイクという、白斑の部分を目立たなくする化粧指導が行われることもあります。
先生が実際に行っている治療について、詳しく教えてください。
当院では、先ほど紹介したナローバンドUVB、エキシマライト、そしてエキシマレーザーを治療に用いています。広範囲に症状が広がっている場合はナローバンドUVBを、そうでない場合はなるべく健常部位(症状が出ていない部位)に紫外線を当てないようにターゲット型の機器を用いています。狭い範囲や凹凸のある部位にも照射しやすいターゲット型のエキシマライトを形状違いで2種類導入しているとともに、エキシマレーザーも小スポットで使いやすく、活躍しています。複数の機器があると、患者さんごとの症状や部位に応じて適切な機器を使い分けられるので、よりその方に合った治療を提供できるのではないかと考えています。
尚、白斑の治療はなかなか効果が出ないことも多く、患者さんも「全然良くなっていない…」と治療のモチベーションが下がってしまうこともあります。特にお顔に白斑が出ている患者さんは、見た目にかなり影響する部分なので、お悩みも深くなりがちです。そこで当院では、re-Beauという肌画像撮影器を使用して症状の状態を写真に撮らせていただいています。re-Beauでは通常のカラー写真だけでなくUV写真が撮れるので、目には見えない皮膚の色素の状態も写真で見ることができます。これを患者さんと一緒に時間経過を追って細かく見ていくことで、どんなに小さくても良くなったところを見つけて声をかけ、治療のモチベーションを保てるように役立てています。また、UV写真で見ると治療すべき部位がわかりやすくなるので、ターゲット型治療器を用いる私たちにとってもメリットのあるひと手間だと思っています。
知っておきたい 白斑のこと
日本に患者さんはどれくらいいるのですか?
厚生労働省の「白斑の診断基準及び治療方針の確立」班が2010年に報告した調査結果では、全国に6359名の患者さんがいる、とのことです。世界的には白斑の有病率は0.5%前後と考えられているので、日本の人口と照らし合わせると実際にはもっと多くの患者さんがいるのではないかと考えられています。
白斑って、治る病気なのでしょうか?
尋常性白斑は、解説してきた通りはっきりとした原因が明らかになっていないため、根本的に解決できるとは言えません。治療により皮膚の色が回復しても、また白くなってしまうこともあります。ですが、日々治療法が研究されていて、「尋常性白斑診療ガイドライン」という治療のガイドラインも制定されました。
白斑に似た別の病気もあるのですか?
薬剤による白斑
薬剤や化学物質がメラノサイトに障害を起こすことで、白斑があらわれることがあります。尋常性白斑とは異なり、原因がはっきりとわかっているので、しっかりと鑑別する必要があります。2013年には、「ロドデノール」という成分が配合された化粧品を使用して白斑が現れた、という事例もありました。
感染症
細菌、ウイルス、真菌等の感染によって、白斑があらわれることがあります。代表的なものとして、皮膚にもともと存在する常在菌である「癜風菌(でんぷうきん)」があります。まだ、梅毒が原因となって白斑があらわれることもあります。
老人性白斑
脱色素疾患の1つとしても紹介しましたが、加齢によってメラノサイトが減少することにより、白斑があらわれることがあります。
まとめ
今回は、皮膚の病気の一つである「白斑」について詳しく説明しました。
白斑は見た目にあらわれるので、患者さんのQOLが著しく下がってしまう病気のひとつです。時には、社会活動にも影響を与えることがあります。そのため患者さんご自身やご家族など身近な方は、治療に対して意欲が高くなる一方で、科学的な根拠のない治療法に助けを求めてしまうこともあります。まずは医療機関を受診して、科学的根拠に基づいた治療を受けることが、何よりも大切です。
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