切らないワキ汗治療

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【医師監修】汗をかかない方法ってあるの?!まずは仕組みを解説

監修医師:藤本 智子 先生(池袋西口ふくろう皮膚科クリニック 院長 / 皮膚科専門医)

エレベーターや満員電車で、ふと漂ってきた汗のにおい。そういえばさっき走って汗だく…って、このにおい、まさか自分?!
日常生活で、こんなシチュエーションに遭遇したことはありませんか?
「汗なんてかかなければいいのに…」「この汗、今すぐ止めたい!」「汗ジミのせいで、着たい色の洋服が着られない!」と、何かと嫌われがちな「汗」ですが、そもそもなぜ、私たちは汗をかくのでしょう。
この記事では、そんな疑問にお答えします。

監修:藤本 智子 先生(池袋西口ふくろう皮膚科クリニック 院長 / 皮膚科専門医)

1.汗は何のためにあるの?

汗は、基本的には体温調節のためにかくもの。皮膚の表面から汗が蒸発するときの気化熱(液体が蒸発するときに周囲から吸収する熱のこと)で体を冷やす効果があります。なので、気温の高い時や運動などで筋肉が熱くなっている時には、より体を冷やすためにたくさんの汗をかくのです。
またフェロモンのようなものを出す役割や、手足をしっとりさせるすべり止めとしての役割、保湿効果もあると考えられています。なので全く汗をかかないと、暑いところで体温調節ができずにすぐ熱中症になってしまったり、皮膚が乾燥してしまったりと、困ったことになってしまうのです。
何かと嫌われがちな汗ですが、大切な役割を担っています。

汗に関するマメ知識

汗をかくと体内の水分と一緒にミネラルも排出されるため、人間は汗をかかない他の動物たちと比べて塩分を大量に摂取しなければなりません。人間が塩味好きなのは、実は汗をかくからなんです!

2.汗はどこで作られるの?

汗は、皮膚にある汗を皮膚の表面へ送り出す「汗腺(かんせん)」という管で作られます。汗腺は皮膚の表面から約1~3mmの深い部分(真皮の深層から皮下組織)にかけて存在していて、根本は脂肪に囲まれています。汗腺には、次の2種類があります。

①エクリン汗腺

全身にあり、体の部位によって密集度が異なります。特に、手のひら、足の裏、ワキの下に多く存在します。主に、体温を下げる役割があります。

②アポクリン汗腺

エクリン腺よりも大きくて、主にワキの下、耳の穴、小鼻、乳輪や外陰部などに存在します。哺乳類の独特のフェロモンのようなものを出す役割があります。

3.汗をかく仕組みは?

汗をかく要因には、汗の一番大切な役割である体温が上昇した時にかく「温熱性発汗」、緊張・興奮・不安・精神的ストレス・恐怖・驚きなどの精神的刺激が原因の「精神性発汗」、辛いものを食べた時にかく「味覚性発汗」の3種類があります。ここでは、種類ごとに仕組みを解説します。

①温熱性発汗の仕組み

最も一般的な汗をかく仕組みです。体温や皮膚表面の温度などの温度情報と、運動しているときは筋肉からの情報を、大脳にある体温調節の中枢がキャッチし、体温を下げようと身体中の「汗腺」に汗をかくように指令を出します。すると、近くの血管から血しょう(血液から血球などを除いた液体成分)が汗腺に送られますが、その際、中に含まれる身体に必要な成分は血管に戻し、残りの水分を皮膚から排出して、汗をかきます。

②精神性発汗の仕組み

興奮や緊張などの強いストレスがかかったとき、脳の前頭葉や辺縁系と呼ばれる部分が刺激され、手のひらやワキの下、足の裏などに瞬時に汗がでることがあります。これが精神性発汗ですが、まだ詳しいことはわかっていません。温熱性発汗のときと比べて一気に汗が出るため、血液成分を多く含んでいるためネバネバしています。

③味覚性発汗の仕組み

主に辛い物を食べたときに、頭皮・顔面を中心とした上半身、鼻や頭、口の周りなどにかく汗です。この役割ははっきりしていませんが、辛さによる刺激を口腔内の温度上昇と脳が勘違いし、冷却しようとしているという説があります。

汗に関するマメ知識

皮下脂肪は体にとって断熱材のようなもの。体から熱を逃げにくくするので、皮下脂肪の多い人は少ない人よりもたくさん汗をかかないと体温が下がりません。皮下脂肪の多い人がたくさん汗をかくのは、とにかく熱を逃がそうとしている体の働きからくるものです。

4.じゃあ、どうやったら汗をかかなくなるの?

残念ながら、市販の制汗剤やデオドラント用品は、一時的な効果はあっても汗自体を根本的にかかなくすることはできません。ただ、制汗剤には収れん作用という「汗の出口を縮めて汗を出にくくする」効果のある成分や汗を吸収してベタつきをおさえる成分が含まれるものがあり、デオドラント用品にはにおいの元になる雑菌の繁殖を軽減する殺菌成分や、においを吸着する脱臭成分が含まれているものもあります。根本的に汗を止めることはできませんが、日常的なケアにうまく活用するのが良いでしょう。
医療機関では、汗をかかなくする治療を受けることができます。ここでは、医療機関で行う汗を止める治療について紹介します。

①汗の出口をふさぎ、汗を出にくくする治療

⇒有効成分(塩化アルミニウム)を塗る方法があります。塩化アルミニウムは、汗を出す管、汗腺の出口部分の角層(皮膚の一番外側の垢となって排出される層)に沈着してふたになることで、汗がでなくなるため、塗ることで発汗が減少するといわれています。ただし、効果を持続させるには継続的な治療が必要なことに加え、お薬の濃度が高い方が治療効果は高いのですが、濃度が高いほどかぶれなどの副作用が出やすくなるので、注意が必要です。

⇒イオンフォトレーシスという、汗の多い手のひら、足の裏を水道水にひたして電流を流す方法もあります。水道水に電流を流すと電気分解という現象がおき、水素イオンが発生します。この水素イオンが汗の出口を障害して汗を出にくくするのではないかといわれています。治療したい部位がワキ汗(腋窩多汗症)の場合、水にひたすことが難しく、効果的ではありません。

②汗腺への「汗をかく指令」をストップする治療

⇒ボツリヌストキシン製剤を注射する方法があります。発汗は、交感神経から汗腺にアセチルコリンという物質が放出されることで起きるので、アセチルコリンの働きを抑えれば汗が減少する、という仕組みの治療です。次に紹介するお薬の服用と異なり、注射なので、注射した部分にのみ作用します。1回の注射で、平均約半年、汗が出るのを抑えることができるので、半年に1回のペースで治療を受ける必要があります。注射針を片ワキに何十箇所と刺して注入するので、痛みもあります。

⇒有効成分(臭化プロパンテリン)を服用する方法もあります。アセチルコリンを抑える抗コリン剤(神経遮断薬)は全身に作用するため、ワキ汗などの部分的な汗だけでなく、全身にかく汗に働きます。しかし、このお薬は神経遮断薬のため、口の渇き、眠気、胃腸障害、便秘、眼の調節機能が低下して起こる視力障害など、副作用が強いというデメリットがあります。

⇒手汗(手掌多汗症)の場合は、胸部交感神経遮断手術も有効です。手掌多汗症は、何らかの原因で交感神経の働きが異常に活発になることで多量の手汗が出る病気です。この神経刺激経路が胸部交感神経を通るので、この経路を遮断すれば手のひらの汗が止まる、という仕組みです。しかし、重大な合併症として「代償性発汗」が起こるリスクがあります。これは手術前にはなかった、胸、お腹、腰や大腿部の汗が多くなるという現象です。程度の差はあるものの、手術後ほぼ全員に起こります。程度は個人差が大きく、どの程度の発汗が起こるのかを手術前に予測することは、現状できないようです。

③汗腺の働きをストップする治療

⇒治療器で汗腺を焼灼(焼いて破壊すること)・凝固することで、発汗をおさえ、汗の量を減らします。日本では、電子レンジと同じような、マイクロ波というエネルギーを使った機器が薬事承認を取得し、治療に用いられています。効果のあらわれ方と持続期間には個人差がありますが、皮膚を切らないため切開や縫合による傷跡が残らず、また麻酔をして治療を行うので、痛みはほとんどありません。

④汗腺を取り除いてしまう治療

⇒皮膚を切開して汗腺を取り除くことで、汗の量を減らす方法です。ワキの下に1、2か所、4~5cmの切開を入れ、皮膚を裏返して汗腺をじかに見ながらハサミで切除していくのですが、手術のあとは1週間ほど包帯や専用のサポーターで固定するなど、約2~3週間は日常生活が制限されます。また、実際に皮膚を切って手術を行うので、傷口が目立たなくなるまで数ヶ月かかったり、傷跡が残ってしまうことがあります。

参考:医療機関で受けられる「ワキ汗」治療

汗に関するマメ知識

③や④のような治療で汗腺の機能を止めたり、切除したりすると、体に何か問題がおこらないか心配…という方もいることでしょう。実は人間の体には全身で400万もの汗腺があり、ワキの下にあるのはそのうちの約2%だけ!。この2%をなくしても、身体の機能や汗による体温調整に影響することはないと言われています。

5.まとめ

今回は、汗をかく仕組み、汗の働きについて解説しました。

汗にも大切な役割があって、すべての汗が悪者というわけではありません。市販品の汗ケア・汗対策グッズを上手に活用しつつ、それでも対処できない汗に悩んでいるなら、一度お医者さんに相談してみてはいかがでしょうか。市販品でも対処はできるけれど、根本的に解決したいのなら、汗の仕組みに基づいた治療を受けてみることをオススメします。

ワキ汗に関する情報はこちらのページで紹介しています。
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