切らないワキ汗治療

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母子間でこんなに違う!ワキ多汗症の認識ギャップ

監修医師:藤本 智子 先生(池袋西口ふくろう皮膚科クリニック 院長 / 皮膚科専門医)

ワキに汗をかくことで生活に支障を感じてしまう「ワキ多汗症」は、中高生にも患者さんが多くいる疾患です。ワキ多汗症はQOLを下げ、とくに多感な中高生にとっては深刻な悩みですが、母親の理解にはギャップがあることが、調査から分かっています。

監修:藤本 智子先生(池袋西口ふくろう皮膚科クリニック/皮膚科専門医)

1.ワキ多汗症とは

手のひらや顔、頭部、ワキの下、足の裏など、体の一部だけに、日常生活で困るほどたくさんの量の汗をかいてしまうことはありませんか。それは、「原発性局所多汗症」という病気かもしれません。『原発性局所多汗症診療ガイドライン』では、明らかな原因がないまま症状が6カ月以上続き、下記の6つ基準のうち2つ以上にあてはまる場合は、原発性局所多汗症と診断されます。診断は、汗の量ではなく、患者さんが汗をかくことでどれだけ日常生活に支障を感じているかがポイントです。

原発性局所多汗症診断の基準

・初めて症状が起きたのは25歳以下のとき
・左右どちらも同じくらいたくさん汗をかく
・睡眠中には、ひどい発汗は治まる
・週1回以上多汗のエピソードがある
・家族にも同じ症状の人がいる
・多汗によって、日常生活に支障をきたしている

原発性局所多汗症のうち、症状がワキの下に出る場合は「原発性腋窩(えきか)多汗症」といい、一般的に「ワキ多汗症」と呼ばれます。ワキ多汗症の患者さんは、「洋服に汗ジミができる」「素材によっては服を傷めてしまう」「手を挙げられない」「発汗に伴う臭いが気になる」「洋服のワキの部分が黄ばんでしまう」などに悩む人が多いようです。

調査(※)によると、ワキ汗を気にし始める時期は中学生が最も多く、次いで高校生という結果が出ています。これは、汗を吸収しづらい素材でできている制服を着用する人が増える年代であると共に、思春期という多感な時期であるから、と推測されます。実際、同調査ではワキ多汗症が原因で「学校行事に参加できなかった」「学校に欠席/遅刻/早退することがあった」という回答も出ています。

※出典:藤本 智子,日臨皮会誌:39(3),431-439,2022

2.中高生の患者と母親の多汗の原因についての認識

2022年に科研製薬株式会社が皮膚科医師と共同でインターネットで実施した、ワキ多汗症の中高生と「自身のお子さん(中高生)がワキに汗が多い」と認識している母親を対象としたワキ多汗症に対する認識調査(※)では、「自分/お子さんのワキの多汗症状に気づいた年齢」は子で平均13.6歳、母親で平均11.1歳と、子より親の方が早い時期に多汗の症状に気づいているようです。

また、「ワキ汗が多い原因は何だと思うか?」という質問については、子も母親ともに「体質」「遺伝」「代謝が良い」という回答の割合が多く、「病気」という回答をした割合は少数でした。ワキ多汗症は、皮ふ科で保険適用の治療が受けられる疾患ですが、子にも母親にもそれが理解されていないのが現状のようです。

※出典:藤本智子ほか,中高生の腋窩多汗症に対する認識調査,日臨皮会誌:40(2),170-180,2023

3.子の悩みと母親の理解のギャップ

「『ワキ汗が多いこと』で、どれくらい悩んでいるか?/お子さんは『ワキ汗が多いこと』で、どれくらい悩んでいると考えるか?」という質問については、「かなり悩んでいる」「悩んでいる」という回答の合計割合が、子は90.7%、母親で65.6%と、有意な差があります。つまり、母親が考えている以上に、当事者である子はワキ汗が多いことで悩んでいるのです。

※出典:藤本智子ほか,中高生の腋窩多汗症に対する認識調査,日本臨床皮膚科会雑誌,in press

4.相談先と相談した時の満足度

「ワキ汗に関して相談した相手と相談した際の満足度/お子さんのワキ汗に関して相談した相手と相談した際の満足度」という質問については、子は母親への相談割合が高く、満足度も高いようです。一方、母親が相談する相手は、自分の家族(配偶者など)が最も高いという結果が出ています。とはいえ、いずれも満足度は十分ではなく、子の悩みに対応できていない可能性があります。また、学校関係者(担任の先生や保健室の先生)への相談割合と満足度は共に低く、学校では対応できていない、もしくは対応する必要性を認識されていないことが考えられます。

中高生にワキ多汗症という疾患について理解を深めるためには、家族はもちろん、学校関係者への啓発も重要な課題と言えるでしょう。

※出典:藤本智子ほか,中高生の腋窩多汗症に対する認識調査,日本臨床皮膚科会雑誌,in press

5.対処法と満足度

「ワキ汗に対して実施した対応とその満足度/お子さんのワキ汗に対して行った対応とこの満足度」についての回答は、「制汗剤を使う/使わせる」「タオルを持ち歩く/持ち歩かせる」が多くありました。しかし、満足度は6割程度に留まっています。中には、親子ともに「水分摂取を控える」「運動を控える」といった、誤った対応をしてしまっている回答もありました。

加えて、「医療機関を受診する」は20.1%、「(子に)医療機関を受診させる」は26.0%でした。ここから、ワキ多汗症に悩む中高生に治療を受けてもらうためには、疾患に対する正しい情報の啓蒙と、医師に相談するという選択肢の認知を上げることが重要であることが分かります。

※出典:藤本智子ほか,中高生の腋窩多汗症に対する認識調査,日本臨床皮膚科会雑誌,in press

6.医療機関を受診しない理由

「ワキ汗治療のために医療機関を受診しない理由は?/お子さんのワキ汗改善のために医療機関を受診しない理由は?」という質問に対して、子で一番多かったのは「お金がかかるので、親に言い出しにくいから」という回答でした。一方、母親回答では「何科にいけばよいかわからないから」が多く、受診しない理由にも母子間でギャップがあることが分かります。とはいえ、どちらの理由も根底にはワキ汗治療に関する情報不足があります。

※出典:藤本智子ほか,中高生の腋窩多汗症に対する認識調査,日本臨床皮膚科会雑誌,in press

7.ワキ汗治療の認知度と治療のきっかけ

さらにワキ多汗症を「治療したい/子に治療させたい」と回答した人に対してした、「どのようなきっかけがあれば医療機関で治療を受けようと思うか/どのようなきっかけがあれば、子に医療機関で治療を受けさせようと思うか」という質問には、子は治療費を気にしつつも、親からのすすめがあれば受診する意欲があるという結果が出ています。一方、母親は「子からの訴えがあれば受診させる」が79.0%と最も多く出た回答でした。

子も母親も、医療機関への受診意欲はあるものの、それぞれの訴えをきっかけにするという人が多いようです。つまり、受診のきっかけをつくるには、家族間でワキ汗について話し合うことが重要ということが分かります。

※出典:藤本智子ほか,中高生の腋窩多汗症に対する認識調査,日本臨床皮膚科会雑誌,in press

8.まとめ

この調査では、中高生のワキ多汗症(腋窩多汗症)について、子と母親の間では認識のギャップがあることが分かりました。

疾患に対して悩んでいる子の心理状態を理解できていない母親がいるということは、さらに幅広いワキ多汗症についての疾患啓発の必要があります。また、子が母親以上に医療費を気にして受診をためらっている実態を見ると、医療機関を受診することで保険適用の薬剤を含めた治療の選択肢が広がることも併せて啓発していくことが重要と考えられます。

ジェイメックでは、少しでも多くの方にワキ汗が治療できるものであることを知っていただくために、ワキ汗の情報サイトを運営しています。チェックリストや治療できる医療機関を探せるサイトへのリンクも紹介しています。ワキ汗に悩んでいる方、お子さんのワキ汗が多いかも?と気づいた方は、是非「気になるワキ汗サイト」を覗いてみてください。

     

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